心不全チェックリストをうまく使ってください。
一般の方向けの、心不全チェックリストが日本循環器学会から発表されました。
10個の項目があり、それに該当すれば心不全の可能性があるというものです。
とは言え、10個すべてが重要というわけではありません。
例えば①に該当する方は非常に多く、これだけで心不全を疑うのはどうかと思います。
しかし②④⑥⑨⑩は、1つでも該当すれば心不全の可能性を感じます。
実際に心不全で病院に来られる方で一番多い訴えは、④の「息切れ」です。
ちなみにほとんどの息切れの原因は、「心臓」「肺」「貧血」のどれかで説明がつきます。もちろんそれ以外が原因であることもありますが、まずはこの3つが問題ないかどうかを調べる事が非常に重要です。
しかもそれらは比較的簡単な検査で白黒はっきりします。
「血液検査、心電図、レントゲン、心エコー」
この4つでかなり多くの情報が手に入り、そこから更に進んだ検査を行うかどうかの判断は、担当医師の経験や勘に委ねられます。
しかしまずは病院を受診しないと始まりません。
このブログをきっかけに病院を受診してくれる方が少しでも増えてくれれば幸いです。
<余談>
心不全と診断されると、治療方針は病院や医師によって大きく変わってきます。
良い病院に行けば必ず良い先生に出会えるという保証はなく、多くの方が悩まれるところです。先生と患者さんとの相性も大事です。
「全ての患者と相性が合う」、そんな神様みたいな先生は存在しません。
特別なコネクションがない限り、相性が合う良い先生と出会うには「運」が必要となってくると思います。
「地域で評判の病院に行っているのに、担当医は話をほとんど聞いてくれない」
そういった話は本当によく耳します。
しかし良い先生に出会える確率を上げる事は可能です。
それはまた次回に。
有意義な検査を受けましょう!
様々な病気があるように、検査も色々なものがあります。
そのためどの検査をどのように受ければいいか分からない方が多いと思います。
例えば胃癌や大腸癌かどうかをハッキリさせたければ、血液検査やCTを何度もやるより、胃カメラや大腸カメラをやった方が確実です。
確かに侵襲的な検査を行う前に、比較的負担の少ない検査で評価する事は大事かもしれません。
なので、一気に核心に迫る検査を行うかどうかは担当医の手腕にゆだねられます。
癌や循環器の病気の検査は日々進歩しています。
その中で循環器疾患の、特に狭心症や心筋梗塞の評価をする上で、非常に有益な検査は「心臓CT(冠動脈CT)」と「心筋負荷シンチ」です。
①心臓CT
胸や腹のCTを撮るのと同じ感覚で心臓の血管を描出する事ができる検査です。
上の写真は大雑把な情報しかありませんが、実はもっと細かく見る事が出来ます。
CTさえやってしまえば、かなりの確率で白黒はっきりするので、非常に有意義な検査と言えます。
しかし比較的手軽な検査で、ちょっとだけ悪い所も見つかってしまうため、いたずらに心配事を増やしてしまう事もあります。
ちなみにこの心臓CTは、いつでもどこでも出来るわけではありません。
江戸川区在住の方であれば、
①江戸川病院(江戸川区)
あたりをお勧めします。
その他の病院でも出来ますが、もし治療が必要になった場合を考慮するとこうなります。
自分は現在②の千葉西総合病院の循環器部長として勤務しています。
②心筋シンチ
心臓CTは万能な検査ではありません。
すでに狭心症の治療(カテーテル治療)をしていたり、血管の石灰化が著しい方は、心臓CTを撮っても上手く撮影できません。
ステントや石灰化周辺が白く光ってしまい、大事な所がうまく見えません。
そんな時に力を発揮してくれるのが、「心筋シンチ」というものです。
体に無害な放射性物質が心臓の元気な所に集まり、それを撮影します。
心臓の血流が悪い所には集まりません。
つまり心臓のどこら辺が血流が悪いかが分かります。
心臓を丸で表現し、下の方が黒く抜けているのが分かるでしょうか?
そこが心臓の血流が悪い場所です。
この所見が見られると、ほぼ間違いなく狭心症であり、カテーテル検査や治療へと続いていきます。
逆にこの検査で異常が見られなければ、多少怪しい病変があったとしても経過観察になり、1年後再検査という流れになる事が多いです。
また術後の再発チェックにも使い勝手の良い検査です。
江戸川区在住であれば、
①江戸川病院
をお勧めします。
この検査も他にも出来る場所はありますが、それらはどれも「薬剤負荷」と言って、
薬で心臓に負担をかけるというものです。値段が高い検査の割には精度が低く、やはり地味ではありますが「運動負荷」をするべきです。
運動負荷は、ランニングマシンの上で数分早歩きをしてもらい、かなり疲れてもらった(心臓にかなりの負担を掛けた)状態で検査を行います。
「薬剤負荷」は医師の診察が不要のため簡単に検査が出来ますが、「運動負荷」は医師同伴で行い、事前の診察も必ずあります。裏を返せば、それだけ精度が高いという事です。
どちらの病院も受診した当日にその検査を受ける事は出来ず、予約を取って後日行います。またかかりつけでなければ紹介状も必要です。
こういった診断や状態評価に非常に有意義な検査をうまく使い、安心した生活を送ってもらいたいです。
健診で心電図異常を指摘されたら・・・。
循環器外来をしていると、健診で心電図異常を指摘されたという方がたくさん来ます。
そんな心電図異常で一番多いのが、「心室性期外収縮」というものです。
波形はこんな感じです。
健診の心電図はだいたい5~10秒の心電図が記録されます。
その中に1回でも記録されると、心電図異常と診断されてしまいます。
しかし結局10秒程度の検査であるため、他の時間がどうなっているかは分かりません。
悪い不整脈が隠れているかもしれないし、ほとんど無いかもしれません。
要するに、健診の心電図1枚だけでは、期外収縮に関しては評価が難しいです。
とは言え、ほとんどの場合は体に無害であり、心配する必要はありません。
期外収縮を診る上で重要になってくるのが、問診や触診を含めた診察です。
まずは不整脈に伴う症状があるかどうかが重要です。
続いて30~60秒ほど脈を触れてみて、期外収縮の頻度を予測します。
頻度が少なければ、まず問題にならないので、簡単な心エコーを行い、心機能に異常がなければ「問題なし」で終了となります。
頻度が多いと思われる場合は、心エコー以外にもホルター心電図(24時間心電図を記録する検査)を行う必要があるかもしれません。
その後、心エコーやホルター心電図、患者さんの訴えなど総合的に判断し、薬を使用するかどうかを決めます。
普段何事もなくても、疲労やストレス、飲酒、睡眠不足などが重なると、不整脈の頻度は増えます。
自分自身、当直明けや体調がすぐれない時などに期外収縮が出ます。
「3回に1回脈が抜ける」という不整脈が5分くらい続いたり、痛みを伴う事もあります。
正しい知識があれば恐れる事はありません。
まずは良いものなのか悪いものなのかを正しく理解する必要があります。
健診で心電図異常を指摘されたらまずはご相談下さい。
医師が受けたくない・受ける必要がないと思う検査とは?
たばこは悪者??
世の中には色々な医者がいて、その中には少し偏った考え方を持っている人が少なくありません。もちろん自分にもそういった面があると思います。
そういった先生が担当になった場合、予想以上に傷ついてしまう事もあります。
「たばこ」が良い例だと思います。
例えば検査で肺癌が見つかってしまった時。
先生「今までタバコを吸った事がありますか?」
患者「20年前まで1日10本くらい吸ってました」
先生「そのタバコが肺癌の原因ですね。」
そう言われてしまうと、肺癌になったのはあなたのせいです。と言われているようなものです。
先生「今までタバコを吸った事はありますか?」
患者「一度も吸った事がありません」
先生「タバコを吸った事が無い人でも肺癌になる人はたくさんいます」
この場合だと、運悪く癌になってしまった可哀想な患者。
というイメージになります。
もちろんタバコが肺癌の原因になるというのはもはや常識になっていますが、肺癌になる原因はタバコ以外にもいくらでもあります。
それにも関わらず、「タバコ」はいつも悪者になってしまい、喫煙者が病気になると自業自得という印象を抱かせてしまいます。
タバコを推奨しているわけではありませんが、言い方一つで患者さんに与える印象がだいぶ変わります。
「あなたのせいではない」と言われれば、頑張って病気と闘おうと思ってくれる事もあるかもしれません。
とは言え、「今でも現役で1日40本吸ってます」と言われれば、さすがにそれはタバコのせいでしょ。とは思いますが💦
タバコ以外にも同じような例は色々あります。
患者さんやその家族に説明をする時、こう説明したら患者さんがどう思うか、という事を常に考えていきたいです。
有名人と病気 「小渕恵三 元総理大臣」
「心房細動」を患者さんに説明する上で、一番最初に例として挙げています。
2000年に心房細動を原因とした脳梗塞により亡くなられました。
当時はまだ心房細動が脳梗塞の原因になるという事実が、世間にあまり浸透していなかったように思います。
現在ではかなり普及していて何種類もある血液をサラサラにする薬が、当時はまだワーファリンという納豆禁止の薬しかありませんでした。
その影響か、今でも「循環器の薬=納豆禁止」と思っている方は少なくありません。
心房細動が原因の脳梗塞の死亡率は10%未満と言われており、それほど高いわけではありませんが、それでも通常の脳梗塞の3倍程度と言われています。
心房細動合併の脳梗塞は、梗塞の規模が大きいためです。
健診で初めて指摘された心房細動(心房粗動)はだいたい治ります。
「健診で初めて不整脈を指摘されました」
そういって外来に来られる方は非常に多いです。
その多くが「期外収縮」という、あまり害の無い不整脈が多いです。
しかしその中には「心房細動」や「心房粗動」といった不整脈の方も多くいます。
そういった方々を診る時、「1-2年前の健診では何も指摘されなかった」という情報は非常に重要になります。
心房細動などの不整脈が発症して1-2年しか経過していない場合、正しい治療を行えばほとんどのケースが元の脈に戻るからです。
下の心電図は健診で初めて不整脈を指摘されたという方の心電図です。
これは「心房粗動」という、「心房細動」と非常に似た不整脈です。
放置しておくと、心臓の機能が衰えたり、脳梗塞の危険性が通常の3倍になる不整脈です。
特徴としては、ギザギザした波形が目立ちます。
同じ患者さんの、治った後の心電図と比較すると良く分かります。
下の心電図は治療後の心電図です。
ギザギザした波形が消えて、非常にきれいになっています。
治療としては、まず第一に脳梗塞予防の為に血液をサラサラにする薬を飲んでもらいます。治療途中に脳梗塞を起こしてしまったら元も子もないです。
そして治る可能性が高いと判断して、ベプリコールという抗不整脈薬を開始しました。
ところが2ヵ月経過しても元の脈に自然に戻る事はありませんでした。
そこでアミオダロンという薬も追加して1ヵ月待ちました。
しかしそれでも脈は不整脈のままでした。
多くの方はこの辺であきらめてしまうかもしれませんが、自分はまだ治ると信じて更に一歩踏み込みます。
3か月間血液をサラサラにする薬をしっかり飲んでもらっており、心エコーで心臓の中に血栓(血の塊)が無い事を確認したところで、「電気ショック」を使いました。
普通にやったらものすごく痛いので、薬で数分間だけ眠ってもらってから電気ショックを行います。
非常にイメージが悪い治療ですが、不整脈を治すという点においてはこれほど頼りになるものはありません。
そして「100J(ジュール)」という出力で電気ショックを掛けたところ、無事不整脈が元に戻りました。
その日から約1年が経過していますが、今のところ不整脈の再発はありません。
薬も最初は何種類も飲んでいましたが、半年以上経過した時点で、薬を大幅に減らし、現在では1種類だけで不整脈の再発を抑えています。
もちろん今後も再発する可能性はあるため、定期的なチェックは必要になりますが、高い薬を続ける必要もなくなり、脳梗塞のリスクを高める事無く生活を送ることが出来ています。
1-2年以内に発症した「心房細動」や「心房粗動」といった不整脈は、正しく治療を行えばちゃんと治ります。もちろん全てではありませんが、高い確率で治ります。
もしその様な方がいましたら、一度ご相談下さい。
「私が治します!」とまでは言いませんが、治る確率が高いかどうかの判断や、治す事が出来るような病院を紹介する事は出来ると思います。