睡眠時無呼吸症候群が原因の心不全
息切れや呼吸苦、浮腫といった症状は心不全の主な症状の1つです。
高齢者ばかりというイメージがあるかもしれませんが、実は若い人でも心不全状態に陥ってしまう方は少なくありません。
2年ほど前に40後半の女性が心不全による呼吸不全で救急車で運ばれてきました。
血液検査やレントゲンから心不全という診断となり入院になりました。
心不全の指標となる血液検査のBNPが1600(正常な人は50以下)
心エコーで心臓の収縮力を見るEFが25%(正常な人は70%前後)
要するに、割と重症の心不全です。
点滴と酸素投与などで、数日で急性期は離脱し、すぐに状態は安定しました。
問題は心不全の原因です。
狭心症や心筋梗塞、不整脈、弁膜症など心不全の原因は様々です。
もちろんそれらの病気も調べながらも、40代という年齢でそれらの病気になるのかと思っていました。結果的にはそれらの病気は全て否定されました。
患者さんの身長は155㎝で体重は70kg、夜のイビキも酷いという情報があり、
念のため、睡眠時無呼吸の検査をしました。
睡眠ポリグラフィーという検査です。実際に使用したのは、下絵のもう少し簡易的なやつです。
検査の結果、かなり重度の睡眠時無呼吸がある事が分かりました。
簡単に言うと、ODIやRDIが高いほど睡眠時無呼吸の程度が悪く、30を超えると重症に入ります。
ダイエットをして痩せる事が解決の第一歩ですが、実際そう簡単に痩せられるものではありません。しかも心不全状態であれば運動だって満足には出来ません。
そこでCPAPという睡眠中にだけ付ける特殊なマスクを使います。
呼吸が止まっている時に空気を送り込んでくれます。
下の絵のような鼻にだけ付けるマスクが主流です。
使い始めの時は、空気が急に送り込まれてきて眠れないという方が多いですが、1~2週間辛抱して使っていると、段々慣れてくるようです。
こうして睡眠の質を上げつつ、心不全の治療を行っていきます。
ある程度心不全の状態が落ち着けば、あとは外来で経過を見ていきます。
睡眠の質が上がった事で、仕事場への通勤がすごく楽になったと言っていました。
1年ほど経過して、心エコー検査をしたところ、以前25%くらいしかなかったEFが58%まで回復し、BNP値も1600だったのが100を切りました。
その間に体重も落ち、睡眠の質も上がり、CPAP治療を終了する事が出来ました。
しかしだからと言って安心というわけではありません。
今後再び悪化する可能性もあるため、少量ではありますが心不全の薬を使いつつ、定期的に病院で検査を受けてもらいます。
睡眠時無呼吸症候群が原因で心不全になってしまうという例は多いですが、あまりまだ世間に浸透はしていません。
他の病院で心不全の原因が分からず、自分の病院で検査をしたら睡眠時無呼吸が原因だったという例もあります。
自分で睡眠時無呼吸を疑う人はあまりいません。
やはり一緒に寝ている人、住んでいる人が最初に気が付く事が多いです。
身の回りに怪しい人がいたら、是非検査を受ける事を勧めてみて下さい。