小岩医院の日記

東京都江戸川区東小岩で内科医(専門は循環器)をしています。日頃どのような事を考えながら診療を行っているかを書いていけたらいいなと思っています。

心房細動の管理について その1

慢性の心房細動を比較的安全な状態に維持(管理)する上で重要な事は以下の3つと考えています。

①血液をサラサラにしているか

②脈拍数のコントロール

③血液検査のBNPもしくはNT-ProBNPの管理

 

①について

長嶋監督や小渕元首相、オシム元監督らは心房細動に伴う脳梗塞に苦しめられました。

心房細動が脳梗塞のリスクを高めるという話はNHKでも放送されています。

それらの啓発活動のおかげで、「心房細動と診断されたら血液をサラサラにする」という考えはだいぶ世間に浸透してきました。

心房細動に使用する血液をサラサラにする薬は2種類で、ワーファリンかワーファリンに代わる新薬です。

前者のワーファリンは納豆禁止の薬で、病院受診の度にサラサラ度をチェックするために採血を行うが一般的です。

後者のイグザレルトを代表とする新薬は、年齢や体格、腎機能から使用する量が決まっており、サラサラ度をチェックする必要がありません。むしろチェックできません。

ではどちらがいいのかという問題ですが、実は明確な正解はありません。

そのため良い点と悪い点を知った上で、担当医師と決めるしかないと思います。

ワーファリンの良い点は、圧倒的な値段の安さです。イグザレルトなどの新薬はワーファリンの30~50倍の値段がします。ちなみにワーファリンはだいたい10~30円程度のため、1割負担の方にとっては1~3円という事になります。

また毎回採血があるとはいえ、どれくらいサラサラなのかを数値で見る事が出来るため、盲目的に薬を飲み続けるよりも安心感があります。

またワーファリンには拮抗薬があるため、薬が効き過ぎている場合にはすぐに中和する事ができますが、新薬にはそれがありません。一部の新薬には中和薬がありますが、薬価が20万円のため、あまり現実的ではありません。

こういった話をすれば「ワーファリン」の方がいいかなという流れになります。

そこで新薬の良い点も考えていきます。

やはり一番は食事の制限が無いという事です。納豆好きの人にとっては重要な問題です。また普段納豆を食べない人でも、「納豆禁止」と言われるとなぜか食べたくなってきます。その他にも緑黄色野菜などにも注意が必要と言われているため、そういった制限が嫌という方には新薬はお勧めです。

また毎回の採血がなく、薬の量の細かな変更が無いというのも単純で分かり易いです。

使用する量が決まっているため、あれこれ考えなくてよいというのもメリットです。

(とは言え心房細動を管理する上で定期的な採血は不可欠です)

最後に新薬の重要な利点と言えば、効果の発動が早く、効き目が切れるのも早いという点です。

薬を止めれば1~2日で効果が切れ、再開すればすぐに効果が出るというものです。

急な手術、抜歯の時などでも管理で簡単です。

それに対してワーファリンは効果が切れるのに3~5日かかります。

しかしそれは裏を返せば、飲み忘れると効果がすぐに切れてしまうという事でもあります。

ちなみに先ほど少しお話ししましたが、新薬の最大の欠点はやはり値段です。

1日500円が相場です。1割の人にとっては50円、3割だと1日150円。

1か月処方で4500円、3か月分処方すると1万円以上します。その他の薬もあるので、合計すると結構な値段になります。

 

これらの話をして最終的には患者さんにどちらにするか決めてもらっています。

費用の面でワーファリンを選択される方も多いですが、最近は情報化社会の影響か、新薬を選択されるかたの方が多いように思います。

それでも決められず、「先生はどちらが良いと思いますか?」という質問を受ける事は多いです。

そういう時は、「自分だったら新薬を使います」と答える事が多いです。

理由はやはり服薬管理が簡単だからという点です。ワーファリンは非常に良い薬ですが、今まで3錠だったのが急に4錠になったりという事があり、混乱を招くことがあります。その他にも多くの薬を飲んでいる場合はなおさらです。

 

以上のように、現在の主流は新薬です。「新薬=良い薬」という世間の雰囲気もあります。あえて時代の流れに逆らうのはあまり良い考えではありません。

しかし本音を言うと、本当は自分はワーファリン推しです。

(ただしそれは管理する側として、という意味です。)

1-2か月毎の受診、毎回の採血、これらの条件がクリアされれば、ワーファリンは非常に良い薬です。サラサラ度を毎回チェックして薬の量を調整するのは、確かに面倒ではあるかもしれませんが、非常に理にかなった方針です。自分が決めたワーファリンの量で上手くコントロール出来ているという自己満足も得られます。「自分が最適な量に調節します」、なんて昔はちょっと格好つけていた時期もあります。

 

しかし実際はこういった思いは封印し、あくまでも主流を勧めるのも大事な務めであると思っています。

 

話が長くなってしまったので、②③についてはまた後日。