小岩医院の日記

東京都江戸川区東小岩で内科医(専門は循環器)をしています。日頃どのような事を考えながら診療を行っているかを書いていけたらいいなと思っています。

心房細動の管理について その2

慢性の心房細動を比較的安全な状態に維持(管理)する上で重要な事は以下の3つと考えています。

①血液をサラサラにしているか

②脈拍数のコントロール

③血液検査のBNPもしくはNT-ProBNPの管理

 

②について

血液をサラサラにするという行為は、あくまでも脳梗塞などの血栓症を防ぐためであり、治療というよりあくまでも予防です。

血液をサラサラにしても、何かの症状が良くなるわけではありません。

そう考えると、心房細動の治療で最も重要な事は、脈拍のコントロールと言っても良いと思います。

全ての心房細動で脈が速くなるというわけではありませんが、ほとんどの場合は頻脈(脈拍数が100を超える状態)になり、しかも発症初期の方が脈は速く、晩年は徐脈(脈が遅くなる事)になる事が多いです。

そのため知らない間に心房細動になっていて、頻脈になっている事に気が付かず、心不全となって入院するというケースが非常に多いです。

逆に、脈拍数がしっかりコントロールされていれば、心不全になる確率がかなり下がります。

自分が考える理想的な脈拍数は60~80です。

しっかり明記してある書物や論文が少なく、この数値はあくまでも個人の見解です。

色々な考えがあるかもしれませんが、目標となる数値がはっきりしている方が治療方針が決めやすいと思います。

 

そしてここからが最も重要なところで、どの薬を使って脈拍数をコントロールしていくかを考えなければいけません。

そしてどの薬を使うかが、医師によって変わってきます。

古い考え、新しい考え、細かい考え、大雑把などなど色々な考え方があり、どれが正しくてどれが悪いと決めるのがとても難しいです。

新しい事ばかりを追い求めても上手く行かない事があり、温故知新という言葉通り、昔からある治療も上手く取り入れる必要があります。

脈拍数を抑える薬は大きく分けると3つになります。

1⃣ジギタリス

2⃣β(ベータ)遮断薬

3⃣カルシウム拮抗薬

 

簡単にちょっとだけ説明します。

1⃣のジギタリスというのは、かなり昔からある薬で、強心薬という側面を持ちながらも脈拍数を抑える事が出来る薬です。

本当に使い勝手の良い薬なのですが、様々な論文で副作用ばかりが目立ってしまい、マイナスイメージの強い薬となってしまいました。ちょっとした悪者扱いです。

ですが私は研修医時代から愛用しています。

心房細動で心不全になってしまった場合には、迷わず使っています。

用法用量を守って正しく使えば、非常に有能な薬です。

 

2⃣のベータ遮断薬、よく使われる薬の名前はアーチスト、メインテートです。

現在の心房細動の治療において、最も正解と言える薬です。

値段も安く、脈拍数も抑え、心臓保護効果もあるという優れもの。

欠点も少なく、あえて挙げるとすれば、血圧が少し下がるという点です。

つまり、低血圧の患者さんにはちょっと使いにくいかもしれません。

もう少し薬の量を増やしたいけど、血圧が下がってしまって増やせない、という状況は多々あります。そんな時は前述のジギタリスというのを併用すると良い感じになります。

ちなみにこの薬、20年以上前は心臓の悪い人に使うのは禁忌と言われていました。

しかし今では心臓が悪い人にこの薬を使っていないと逆に問題になる時代になっています。

 

3⃣のカルシウム拮抗薬、よく使われる薬の名前は、ワソラン、ヘルベッサーです。

ベータ遮断薬が中心選手になる前に治療の中心となっていた薬です。

そのためいまだにワソランとヘルベッサーのみで脈拍コントロールが行われている事も多々あります。

とは言え、それが絶対にダメというわけではありません。

血圧を下げる効果がベータ遮断薬よりも強いので、高血圧が背景にある場合には使いやすいです。

ベータ遮断薬だけでは血圧も脈拍も上手く下がらない場合には、併用すると非常に良いです。

逆に血圧が低い場合にはまず使えません。

 

1⃣~3⃣の薬をうまく使って脈拍数を抑え、値段、服薬回数、服薬量を減らし、患者さんの負担を減らす。

医者の腕の見せ所ですね。

 

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