小岩医院の日記

東京都江戸川区東小岩で内科医(専門は循環器)をしています。日頃どのような事を考えながら診療を行っているかを書いていけたらいいなと思っています。

睡眠時無呼吸を正しく治療して、心不全を治す。そしてCPAPも卒業へ。

2年程前、別の科で手術をする予定だった患者さんが、手術前の心エコー検査で心不全の疑いがあるという事で精密検査の依頼がありました。

その時の心エコー検査が以下の図です。

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心臓の収縮力(EF)が35.6%と非常に低下していました。通常は70%前後です。

心不全の原因となるものとしては、以下の5つが有名で、割合も多いです。

①虚血性心疾患(狭心症心筋梗塞

②弁膜症

不整脈(心房細動や心室頻拍など)

④心筋症

⑤高血圧

 

患者さんは50歳台の生来健康な女性でした。

入院して上記の原因を一つ一つ調べていきましたが、結局どれも該当しませんでした。

そんな時家族から夜いびきが酷いという話を聞き、念のため睡眠ポリグラフィー検査を行いました。

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その結果、以下の図の様な重度の睡眠時無呼吸症候群が確認されました。

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RDI(呼吸障害指数)というのは、AHI(無呼吸低呼吸指数)とほぼ同じものと考えられており、無呼吸の程度を表すものです。

5以下が正常と考えられており、20前後で中等度、30を超えてくると重症、40-50に迫るとかなり重症というイメージです。

ODI(酸素飽和度低下指数)といのは、睡眠中に1時間で何回酸素飽和度が落ちるかというものです。

これもRDIと同じようなものです。

 

結局この患者さんは、重度の睡眠時無呼吸に対してCPAP療法を開始することになり、退院となりました。

CPAPを導入してから1週間くらいはなかなか慣れず、むしろほとんど眠れないという方も少なくありません。そのためCPAPを導入して1週間入院を延期して、機械に慣れてから退院させています。

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機械を導入後は、今まで感じていた息切れがウソの様に消えたようです。

通勤も大変で転職を考えていたようですが、体調が回復して今まで通り働けるようになりました。

状態安定後、再度心エコー検査を行いました。

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心機能を表すEFは69.3%まで回復し、ほぼ正常通りです。

ちなみに血液検査でも、回復している様子が良く分かります。

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心不全の程度を表すBNPの値が322.3から48.9まで短期間で改善しているのが分かります。他に心臓の病気がない場合、BNPは100を超える事はほとんどありません。

 

結局この患者さんは、CPAP導入後、頑張って体重を10kgほど落とし、睡眠の質も改善した事によって、約2年でCPAP卒業となりました。

その後CPAP無しで様子を見ましたが、心不全が悪化する気配はなく、薬も全て終了し、外来も卒業になりました。

 

確かに特殊なマスクを装着して寝るというのは決して楽なものではないかもしれませんが、治療がうまくいけばマスクを外して眠れるようになることもあります。

睡眠時無呼吸の可能性が少しでもあれば、まずは検査をしてみて下さい。

正しく治療を行えば、より良い睡眠が得られ、体の調子もきっと良くなると思います。

 


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「医師が飲みたくない薬」は本当なのでしょうか?

2017年9月の週刊現代で「医師が自分では飲みたく薬」という内容の記事を出していました。
非常に興味深い内容である同時に、突っ込み所が多くて内容が頭に入ってきません。
でも一番感じたのは、薬を生かすも殺すも処方医しだいという事です。

またこういった強い否定的な意見というのは注目されやすいし、読んでいて面白いだろうと感じました。
書いてある内容はどれも決して嘘ではないし、言いたい事も分かります。

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ただどうしても気になるのが、糖尿病の部分と頭痛などのロキソニンの部分です。

そもそも60歳以上の名医と言うなら、自らが糖尿病にならないで欲しいものです。
また現在糖尿病の薬はたくさんの種類があり、その組み合わせもたくさんあります。どの薬とどの薬を組み合わせるかは医師の世代で大きく変わります。
自分が医師になって約15年経過しますが、その間にいろいろ薬が誕生し、組み合わせのパターンも増えました。国や人種によっても好まれる薬は異なります。
そういった色々な要素を考慮して、薬を決める必要があります。

 

ロキソニンについても意見が誇張され過ぎています。
自分自身、非常にロキソニンのお世話になっており、携帯しているリュックには必ず入っています。
頭痛・発熱の際には迷わず使っていますし、体調不良の時でも仕事をしなければならない時もロキソニンと共に踏ん張ってきました。
長期使用すれば害が出る薬かもしれませんが、使い方次第では非常に良い薬です。
20世紀最高の薬の1つだと思っているだけに、悪者扱いされる事が多いのが残念です。

帯状疱疹が最近増えている気がします。

最近帯状疱疹の患者さんが増えている印象があります。

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日本人の3人に1人がなると言われており、決して珍しい病気ではありませんが、未だに世間にはあまり浸透していない気がします。
簡単に言えば大人の水ぼうそうです。
大半の患者が60歳以上と言われていますが、30代の患者も多いです。
疲労やストレス、病気による免疫力の低下が原因と考えられているため、要は誰がなっても不思議ではないという事です。

体の左右どちらかに出来る帯状の湿疹で痛みを伴うが特徴です。痛みや湿疹がひどくて入院する方もいます。

夏の時期だと「あせも」と診断されてしまうケースが多いですが、痛みを伴ったり湿疹が帯状になっていれば帯状疱疹を疑う必要があります。

湿疹はどこに出来ても不思議ではないため、中には足の甲に出来る人もいます。
髄膜炎などの合併症も注意が必要とされていますが、個人的に一番つらいのは顔に出来てしまった場合だと思います。
跡に残る事もあるため、早期発見早期治療が重要です。

最近では50歳以上の方にワクチンの使用が許可されており、希望者が少しずつ増えてきています。
値段は8000円~10000円が相場です。
1回打てば10年程度有効と言われていますので、気になる方はいつでもご相談下さい。

睡眠時無呼吸症候群が原因の心不全

息切れや呼吸苦、浮腫といった症状は心不全の主な症状の1つです。

高齢者ばかりというイメージがあるかもしれませんが、実は若い人でも心不全状態に陥ってしまう方は少なくありません。

2年ほど前に40後半の女性が心不全による呼吸不全で救急車で運ばれてきました。

血液検査やレントゲンから心不全という診断となり入院になりました。

心不全の指標となる血液検査のBNPが1600(正常な人は50以下)

心エコーで心臓の収縮力を見るEFが25%(正常な人は70%前後)

要するに、割と重症の心不全です。

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点滴と酸素投与などで、数日で急性期は離脱し、すぐに状態は安定しました。

問題は心不全の原因です。

狭心症心筋梗塞不整脈、弁膜症など心不全の原因は様々です。

もちろんそれらの病気も調べながらも、40代という年齢でそれらの病気になるのかと思っていました。結果的にはそれらの病気は全て否定されました。

患者さんの身長は155㎝で体重は70kg、夜のイビキも酷いという情報があり、

念のため、睡眠時無呼吸の検査をしました。

睡眠ポリグラフィーという検査です。実際に使用したのは、下絵のもう少し簡易的なやつです。

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検査の結果、かなり重度の睡眠時無呼吸がある事が分かりました。

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簡単に言うと、ODIやRDIが高いほど睡眠時無呼吸の程度が悪く、30を超えると重症に入ります。

ダイエットをして痩せる事が解決の第一歩ですが、実際そう簡単に痩せられるものではありません。しかも心不全状態であれば運動だって満足には出来ません。

そこでCPAPという睡眠中にだけ付ける特殊なマスクを使います。

呼吸が止まっている時に空気を送り込んでくれます。

下の絵のような鼻にだけ付けるマスクが主流です。

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使い始めの時は、空気が急に送り込まれてきて眠れないという方が多いですが、1~2週間辛抱して使っていると、段々慣れてくるようです。

こうして睡眠の質を上げつつ、心不全の治療を行っていきます。

ある程度心不全の状態が落ち着けば、あとは外来で経過を見ていきます。

睡眠の質が上がった事で、仕事場への通勤がすごく楽になったと言っていました。

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1年ほど経過して、心エコー検査をしたところ、以前25%くらいしかなかったEFが58%まで回復し、BNP値も1600だったのが100を切りました。

その間に体重も落ち、睡眠の質も上がり、CPAP治療を終了する事が出来ました。

しかしだからと言って安心というわけではありません。

今後再び悪化する可能性もあるため、少量ではありますが心不全の薬を使いつつ、定期的に病院で検査を受けてもらいます。

 

睡眠時無呼吸症候群が原因で心不全になってしまうという例は多いですが、あまりまだ世間に浸透はしていません。

他の病院で心不全の原因が分からず、自分の病院で検査をしたら睡眠時無呼吸が原因だったという例もあります。

 

自分で睡眠時無呼吸を疑う人はあまりいません。

やはり一緒に寝ている人、住んでいる人が最初に気が付く事が多いです。

身の回りに怪しい人がいたら、是非検査を受ける事を勧めてみて下さい。

 

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やはり心房細動は治した方がいい。

心房細動の患者が来られた時にまず最初に考えるのは、脈拍数コントロールを主体とする治療を行うか、不整脈を元の脈に戻す治療を行うかをどうかです。

残念ながら元に戻りそうにない心房細動があるのは事実ですが、やはり治りそうなものは治してあげた方がいいと思っています。

ですが、治さなくても問題はないという考えが医療界に浸透しているため、勿体ないと思う事がたびたびあります。

今回は不整脈が治った事で、心臓の機能が回復した1例を紹介します。

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上図のように、60代の男性が健診で不整脈を指摘されて来院されました。

すでに左心房(LAD)の拡大が見られており、心房細動になってからしばらく時間が経過していると思われる状態でした。

しかし心電図でf波と呼ばれるギザギザした波が大きく、元の脈に戻る可能性を十分にあると判断し、抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)と抗不整脈薬を開始しました。

もちろんすぐに治りはしませんでしたが、2-3か月辛抱強く待った結果、無事薬だけで元の脈に戻りました。

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不整脈が元に戻り、患者さんも気持ちが良くなったと言っていました。

そしてそれから1か月後に心エコー検査を行ったところ、心機能の回復も確認されました。

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心エコー検査で心臓の機能を見るとき、一番簡単に分かるのが、「EF」という、心臓の収縮力の指標になるものです。

最初のEFは24.4%とかなり低かったものが、不整脈が治った後は、50.9%まで回復していました。

通常のEFは60~70%で、EFが50%と言ってもやや低めですが、もう少し時間が経てばもう少し回復すると思っています。

 

このように、正しい治療を行えば、心房細動は元に戻る事が多いです。

もちろん薬を使っても、電気ショックを行っても元に戻らなかった例はいくつもあります。

とは言え、治りそうなものはちゃんと治してあげるのが我々の仕事だと思っています。

 

脈拍数のコントロールだけでも問題ないというのであれば、今回の例はどうなるのでしょうか。

脈拍数は来院時にそれほど多くないため、抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)だけ処方される場合も多いと思います。

でも実際には元に戻れば心臓が弱っているという心配をしなくて済むので、非常に安心して生活が送れると思います。

 

心房細動でお悩みの方がいれば、是非一度相談して頂けると幸いです。

 

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更年期障害は女性だけのものではありません。

更年期障害と言うと女性だけのもの、というイメージがまだまだ消えません。

実は男性にも更年期障害があるというのはご存じでしょうか?

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40歳頃から始まると言われていますが、60歳頃から増えてくる印象があります。
循環器外来をしていて更年期障害を疑うような症状がある方は実は多いです。
①体のほてり
②動悸
③夜の寝汗
④疲れやすい
といった症状をお持ちの方が多く来院します。

循環器外来では一通り心臓の検査をして、異常がなければそこで終わってしまいますが、もう少し追究してあげてもいいのではないかと思ってしまいます。

必要な検査は採血で男性ホルモンの値を調べるだけです。

世間的にはメンズヘルス外来というのが浸透してきていますが、やはり自分も含め男性はプライドが邪魔をしてそういった所へ行くにはそれなすりの勇気と覚悟がいります。

内科でサクッと調べてくれればストレスは少ないと思います。

まずは調べてみるところから始めてみませんか?
違うなら違うで、安心できると思います。

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<内科で提供できる治療>

漢方薬

②生活習慣の改善指導

③テストステロン(男性ホルモン)の注射・・・2週間に1回筋肉注射を行います。

なお、テストステロン注射を行う際は、前立腺肥大や前立腺癌などの男性特有の病気をチェックする必要があります。

そのため前立腺癌を調べる腫瘍マーカーPSAの測定や腹部エコーによる前立腺の評価は追加で必要になります。

5月あたりから流行り始める感染症、アデノウイルス

ゴールデンウイークが終わり、インフルエンザの流行も終わり、いよいよ夏が近づいてきている様な天気です。

季節の変わり目と言えば、風邪が流行る時期です。
この時期に注意が必要なのが、アデノウイルスによる咽頭結膜炎(プール熱)です。

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①38度を超える発熱(40度近くになる事も)
②喉の痛み
③目の充血
の3つが特徴の感染症ですが、注目すべきはその感染力です。
保育園や幼稚園で一人発症すれば、数日後にはそのクラスが全滅する事も多々あります。(潜伏期間5~7日)
もちろんその親にも感染する事はあります。
感染経路は飛沫感染接触感染です。

小さな子供(乳幼児)は喉が痛いという事を表現できないので、熱しかないと思いがちですが、実は喉が痛くてご飯が食べられなくなったりします。

検査はインフルエンザの時と同じ様に、喉、鼻水、目やにのどれかを綿棒で拭って迅速検査を行います。

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多くの病院・クリニックでは、まずはインフルエンザの検査を行い、陰性が出たら、アデノウイルスのチェックを行っていると思います。

場合によっては同時に行う事もあります。


アデノウイルスの診断が出ても特別な治療はなく対症療法だけですが、登校登園が禁止になります。
そして症状改善後の2日後から解禁となります。

 

注)アデノウイルスに対する特別な治療がないため、アデノウイルスの検査は行わないクリニックも多いと思います。

 

注2)乳幼児は喉が痛くて食事や水分を嫌がります。そのため薬も飲んでくれません。そんな時のために坐薬を何個か持っていると非常に助かります。最近使ってないからと油断していると痛み目を見ます。坐薬が効いて熱が下がって痛みが軽減すると、ゼリーやヨーグルト、グミなどのお菓子を食べてくれるようになったりします。